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幾つかスタートアップの事例を見ていていくつかのパターンに分かれてくる。本稿は、「年商数億-10億程度のベンチャーに起こりうる事例、課題、対策」を整理しているものだ。随時追記し、よい企業づくりを心がけていきたい。
概要
- 1 前提:弊社について
- 2 結論(本稿のポイント)
- 3 スタートアップ・ベンチャー事例、なぜ越えることができないのか
- 4 このような課題が起きると組織はどうなるのか
- 5 上記のような課題をどうやって解決すればいいのか
- 6 最後に:会社は経営陣の器次第
前提:弊社について
- 5期目のベンチャー企業
- 正社員が2021年10月現在で17名
- 業務委託:流動的ではあるが100-150名
起業して様々な企業の情報をみて、聞いて、経験する中でいくつかの特徴があると考えている。一度頭の中を整理する意味もあり、書いてみる。
結論(本稿のポイント)
- 経営陣の器を広げる以外に会社が大きくなることはない
- (ホラクラシー経営・組織でもマネジメントが不要になるわけではない)
- CEOが自己認識力・言語化力を高め、伝える努力を怠らない
- 採用/人事方針、戦略の言語化は早期にし、経営陣や社員で相互認識する
- 早期にCHRO、事業や経営にコミットできる人事責任者を採用する
課題となる原因、事例から起きてしまう組織の問題、想定する問題の解決策の順に整理していく。
スタートアップ・ベンチャー事例、なぜ越えることができないのか
それまではほぼ人問題は発生しない、発生していたとしたら採用・一緒にやる創業メンバーを注意するべきだ。幾つか課題の事例を挙げる。
CEOとは何かをCEO自身が理解していない or 理想がない
- そもそもCEOの仕事、責務とは何かを定義
- その上でCEOも人であり、得意不得意がある
- そのためCEOが強み・弱み・思考・実行の癖を認識する
- その後、CEOが恐れず自己開示し、言語化し、伝える
- これができる状況を作る
- その他の業務や責務を経営陣でシェアし、統一の認識を作る
これらができていないのに「人がついてこない、社員のエンゲージメントが上がらない」は無理がある。まずは「自分は何者であるか、何を目指しているのか、何を実現したいのか、それはなぜか」などを言語化し、伝える。機会が月に1度もないようであれば時間の使い方を考え、機会を増やすこと。
CEOが仕事や役割の権限委譲できていない
CEOの役割・得意不得意を整理して言語化し、それから権限委譲をすべきだがそれができていないと組織がスケールしない。
- CEOは会社の中長期で一番レバレッジが効く、採用・ファイナンスに集中するべきではあるが、CEOが自分の仕事で手一杯になっている
- また、誰かがフォローできるような体制になっていない
- フォローできるようなマインドの社員がいない
- 権限委譲するタイミングを決めておらず、いつどのように行っていくのかもアイデアがない
人事戦略・方針、採用戦略・方針のいずれかに一貫性がない
企業、組織、人は生物。当然、経営や事業をやっていく上で、環境に合わせて変化させていくのはよくあること。
この2点は人に与える印象が異なる。人事関連は人に関わること、事前に設計されておらず人の課題をどうにかやっていこうとすると影響が大きくなる。組織が疲弊し、回復のコストが大きくなり負担が増す。
スタートアップでは全てが満たされた環境はない
とはいえ、採用や組織作りにおける人事関連の方針が一定整理されていないと迷ってしまう。経営陣で早急に作り、経営陣の中で人事関連のオーナーシップを持って進行するべき人を用意、その後CHROや人事責任者を早く入れた方が良い。
CHRO・人事責任者がいない場合、人事採用組織関連のオーナーシップを持つ人が不在
経営陣の中で人事採用関連の責任・オーナーシップを持つことは、組織が大きくなればなるほど段々と難しくなっていく。
経営陣の役割が分かれ、人事採用関連を担う人が必要になる
CEOは会社全体とビジョン、ファイナンスに集中、COOなど執行に集中する役員は事業戦略や実行周りに集中。技術関連の役員がいる場合、技術の体制作りに集中しているため、人事採用まわりでオーナーシップを持って動く人が不在となる。
上記ように人事採用関連の方針や戦略決定が後手に周り、今いる社員とこれから入る社員の諸々の問題・歪みが発生してくる。歪みが早く発生してしまうと組織は大きくならないし、事業はスケールしない。人事採用関連の責任を持つ人がいなければ、早急に採用するべきである。
5-10人目以内で人事採用責任者を入れるのが理想
5期目の会社を経営して思うことは「5-10人目以内で人事採用責任者を入れることはほぼマストでやった方がいい」ということ。これがないと徐々に戦略と実行のずれが出てきて、組織もふわふわした状態になってしまう。こうなると事業が短期的にうまくいっていてもどこかで限界が来てしまうから。
「スタートアップの環境は大企業ほどよくないから我慢」の理想に対して実行方針がない
当たり前の話だがスタートアップは「給与や待遇が上場企業や大手企業と比較すると満足な環境ではない」ことが多い。どういう目的で頑張っている企業かによるが、株式会社で上場を目指し、より多くの人に影響を与えられる会社を目指すのであれば、SOを発行して社員と一緒に頑張るインセンティブを作っていることが最近のスタートアップだと一般的だ。
スタートアップで働く意味・得られることを整理する
SOを付与するから「成果が上がっても評価しない」というのは、社員視点ではかなり厳しい。「いつ上場するか不明、SOの価値がどうなるか不明」中で働くのはそれ以上のバリューがなければ中長期安心して働くことはできない。
「スタートアップに所属し続けるバリューを、誰に対してどのように提供するか、そしてどう伝えるか」は非常に大切だ。上場経験・スタートアップ経験がある人には伝わるが、ない人には伝わりづらいからだ。この方針を言語化し、伝えることをおすすめする。
人が辞めることを当たり前だと考えている・辞めた時の影響を考えていない
その中で、辞めることが当たり前になってしまうと他の社員のデモチベーションが起き、人間的なつながりが希薄になっていってしまう。自身が辞める時も「辞めても仕方がない、よくあることだからそこまでフォローしなくていい。というような振る舞いをされるのではないか」という不信感を抱き始めてしまう。
このような課題が起きると組織はどうなるのか
組織・採用の立て直しコストがかかる
- 採用コスト
- 退職者フォローコスト
- 残る人のマインドのフォローコスト
採用がうまくいかなくなり採用費が増える
- リファラル採用がうまくいかない(上記課題がある会社では既に発生してる可能性が高い)
- 社員がリファラルで紹介してくれるケースが減る
- きてもらってもいい会社ではない・魅力的ではないと考えてしまい紹介されなくなる
- リファラルしてくれない理由は周りに友人・知人がいないからではない
- インバウンドの採用も増えない場合はエージェントなどを利用する必要がある
- 事業スピードに合わせて採用を急ぐ必要があるのでエージェントを利用せざるを得ない形になる
- 無駄な採用費用が発生する
人事採用担当者が辞める
- 採用戦略、組織戦略が決まっていなく、採用・人事・労務全てをカバーしてるようなスタートアップのHRに限定する話
- スタートアップにおけるHR周辺業務の評価がしっかりできればいいができていない場合やめてしまう
人事・採用担当者不在になると経営陣の採用周りの負荷が激増する
- 経営陣の誰か、または全員で兼務する
- 中心はCEOであるが、採用業務・労務周りまでカバーする事になる
- 人事採用系の業務負担が大きくなる
- 結果、事業スピード・ファイナンスが遅延、など何かの問題が発生する
ネガティブな退職者が増える
「人の課題がフォローできない組織である」「スタートアップであればほぼ等しく成長できるのでこの会社でなくてもいい」などと言われてしまう。このような流れができてくると、今後の採用が難しくなる可能性がある。人の課題に向き合う、人に向き合うという基本がないと事業や企業を伸ばすための人が集まらず、成長しなくなってしまう。なので、この課題が発生する前に人事方針は整理しておくことを強くお勧めしたい。
上記のような課題をどうやって解決すればいいのか
前提、挑戦を続ける・上場を目指すというような会社で課題がないことがない。課題を認識し、どのように解決に向けて動けばいいのか、この2点のいずれも「理解」することが大事だ。ここでは解決策についていくつか考えてみる。
CEOを人に向ける・集中してもらう
- 課題
- 組織の力学などをCEOや経営陣があまり理解されていないケース
- 数値とデータに集中してしまい、社員の人間性・繋がりなど温度感がある組織運営ができていないケース
- どういう言動をするとどういう結果になるかを理解していないケース
- 事業計画とお金(そろばん)だけではうまくいかないことを理解する
- 精神的なつながりがなしだとドライな空気になるのでプロフェッショナル型の組織でない限り、社員がそこにいる意味を失っていく
- そこにいる意味を失う人が増えると退職者が増える
まずはこれらをしっかりと理解した上で、企業の事業戦略・組織戦略を整理し、役割分担・権限委譲し、実行に移していく。シード期を超えたCEOは本来、人とお金に集中するべきだ。
人事戦略、人事方針、採用戦略、採用方針を言語化、実行、伝える努力をする
どこかに歪みが生まれている場合、これらのいずれかに課題がある。どこに課題がありそうかは全てを言語化してみると良いだろう。
- 理想をまず言語化
- 似たような企業の事例があればそれを整理し、自社に合うか整理する
- 理想から整理された内容をもとに実行
- 実行した結果、理想通りにはいかない部分を整理
- 変更できる部分に関しては変更する
- 社員に伝えるときは、背景を伝える
- 意思決定の背景が伝わらないと誰もついて来なくなってしまう
- 社員は重要な意思決定にはいらないのかと疎外感を感じてしまうため
言語化が苦手であればコーチングを利用する
コーチングは自身の考えをうまく整理することに非常に役に立つ。コーチングを利用して自分の考えを壁打ちしながら整理して、理想や現実的な内容も含めて整理していくことが一番早い。経営陣向けにはエグゼクティブコーチングがあるのでこちらをおすすめしたい。
経営陣・個人でエグゼクティブコーチングを受けてみた
最後に:会社は経営陣の器次第
よく言われる話であるが、「会社は経営陣の器の総和」である。経営陣全員が成長し、大きくならなければ会社は大きくならない。誰か1人の成長だけでは1人に比重が寄りすぎて潰れてしまうし、疲れてしまう。
経営陣が背中を合わせて大きくする、そのタクトを振るうのがCEO。実行のアイデアを出したり行動に移していくのがその脇を固める取締役・執行役員などの経営レイヤーの役割だ。
基本はCEOの理解と器が大事
- CEOが上記課題・実行を理解する
- それができる仲間を得られているか
- 得られるように、何を、どのように努力しているか
全てCEOがやるわけではなく、上流設計不足による課題・中長期発生する問題を認識しているのかが否かが大切だ。
経営者をどう支えるか
経験が豊富ではない経営者で問題が起きることはある。問題が起きる前に自身の経営・組織スタイルだとどうなるかは過去の有識者が書籍を多く書かれている。問題に直面するのは、人に関しての学習が不足しているかもしれない。
人起点で事業・会社を考える
これらができなければ事業を作るための人も集まらないし、育たないし、その結果会社が大きくはならない。これが30-50人の壁の正体であり、乗り越え方だと考えている。